東洋医学には、「補瀉(ほしゃ)」という概念があります。人間の生命活動は、呼吸や消化、吸収、排泄といったことから、不足しているものを補う『補』と、過剰になっているものを減少させていく『瀉』から成り立っています。

●鍼の治療でも使われる補瀉の考え方
東洋医学である鍼灸の治療の根本的考えに、「虚するものはこれを補い」「実するものはこれを瀉す」というものがあり、これが『補瀉』と呼ばれているもので、漢方薬ですと配合されている生薬などで使いわけていますが、鍼の場合はその手技によって補瀉を使いわけています。
大雑把に言うと、補(補法)は、細い鍼を使って弱い刺激を与えます。虚するものを補うことが補法になります。鍼をうつことによって正気(せいき)を補います。
一方、瀉(瀉法)は、太く長い鍼を使って強い刺激を与えていきます。身体にたまった邪気を瀉すことで不調を改善していこうとします。
そして鍼で補瀉法を行うことにより、気・血のバランスが取れてきます。

●いろいろな方法がある鍼の補瀉法
鍼による補瀉には、いろいろな方法があります。鍼を回転させる捻転補瀉(ねんてんほしゃ)、鍼を上下に動かす提挿補瀉(ていそうほしゃ)、鍼の抜き差しのスピードを変えていく疾徐補瀉(しつじょほしゃ)、経絡の流れの方向によって変わる迎随補瀉(けいずいほしゃ)などがあります。
捻転補瀉の場合は、患者さんの左側では右回転、右側では左回転させるのが補法、その逆に患者さんの左側では左回転、右側では右回転するのが、瀉法になります。提挿補瀉の場合は、鍼を刺す時に意識して少し力をいれてぬくときは力を抜くのが補法、逆に刺す時は力を抜き、抜くときは意識して適度に力を入れるのが瀉法になります。迎隋補瀉の場合は、経絡の流れの方向にそって鍼を入れ正気の流れをよくするのが補法、逆に経絡の流れに逆らって鍼を入れるのが邪気をとる瀉法になります。疾徐補瀉の場合は、鍼の抜き差しのスピードになりますが、鍼をゆっくり刺して速く抜くのが補法、逆に鍼を速く刺してゆっくり抜くのが瀉法となります。

●呼吸によってうつ鍼によっても、目的が違う鍼
補瀉にはこれ以外にも、呼吸補瀉(こきゅうほしゃ)があります。息を吐くときに鍼を刺入し、息を吸うときに抜刺するのが補法で、息を吸うときに刺入し、息を吐くときに抜刺します。東洋医学は呼吸も大切といいますが、呼吸のタイミングによっても効果があらわれます。この他、開蓋補瀉(かいがいほしゃ)といって鍼を抜いた後の穴の処理により違ってくるものもあります。鍼を抜いた後素早く指で押してふさぐのが補法、鍼をぬくとき、鍼を揺らして鍼孔を開いて指で押さえない方法もあります。

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