認知症の症状の出方


認知症の症状の現れ方には特徴があります。
認知症の人は、他人には対面を保って、いわゆるよそ行きの顔を見せていますが、より身近な家族に対すると症状が出やすい傾向になってきます。


よそ行きの顔と、家族に見せる顔を使い分ける認知症


本来であれば、本人のことを一番考えている家族に対して、感謝しないばかりか、一番ひどい仕打ちをするのはなぜなんだろう、もういい加減にしてほしいと思うのも無理はないでしょう。
特に、この傾向は、毎日介護されている人に対して強くでます。
確かに、毎日介護している人に、いちばんひどい仕打ちというのは納得いかないかもしれませんが、これは裏を返せば、よその人と家族を区別していていることになります。


他人にはよそ行きの顔しているのに、家族にはわがままをいったりひどい仕打ちをするというのは、逆に言えば、心では家族を信頼している証拠でもあります。


これは、自分の置かれた状況をある程度判断する能力がまだ残っているというふうにとらえることもできるのです。


不利なことは認めない認知症


人間、だれでも自己防衛の本能がありますが、これは認知症の患者でも同じです。
たとえば、お漏らしをしてしまったおじいちゃんに、「何やってるのよ、もう! こんなことしないでよ! もうダメじゃない」と言ったとすると、明らかにウソだとわかるような言い訳でも平気でしたりします。
「他の人がここに寝ていて、その人が寝ていて漏らしたんだ」とか「孫が水をこぼしたんだ」なんて、なんと孫まで持ち出して言い訳をしたりします。


怒ると感情的なしこりが残る


おしっこをお漏らしした時、きつく怒らないほうが良いでしょう。
ましてや、「孫が水をこぼしたんだ」なんていう言い訳に対して、「何言ってるのよ! この大嘘つき!」なんて言うと良くありません。


確かに、感情的には、いい歳をしてお漏らしをして、片付けるのはこっちなのよ! しかも何? 孫が水をこぼしたなんて、子どもでもわかるようなウソついて、この大嘘つき! 悪いことをしたんだから、せめて謝ってほしいわよね!」


この感情、ごもっともです。
小さい子どもなら、可愛いし、これから学習していって成長もしていくでしょうし、変な言い訳はしません。すなおに「ごめんなさい」と謝るかもしれません。


謝らないなんて、子ども以下!と思ってしまうのも無理はないでしょう。


しかし、人間、テレビの謝罪会見をみてても、悪いことしても必死に自分を弁護しようとする見苦しい人たちが大勢います。
人間とは不利なことは認めたくないという感情があり、ましてや認知症であれば、なおさらそのあたりの本能が強くでてしまうことも理解しなければいけません。


 


どうせ、認知症なんだから、きつく怒ったって忘れてるだろ?


認知症で、食事食べたことも、5分前のことも覚えていないんだから、きつく怒ってもどうせ10分もたてば忘れるだろ!
この考え方は大間違いです。
こう思っても仕方ないのですが、認知症の人は、物忘れははげしいけど、自分の心に残った感情的なしこりは強く残ります。


具体的に、おしっこしたことは忘れてしまっても、きつく怒られたこと自体はあまり思い出せなくても、この人にきつく怒られて嫌な思いをしたということは残るので、「ああ、この人は怖い人だ。」「この人は、イヤな人だ。」「この人は、私の敵」というように感じてしまうことにもなります。


問題行動を抑えるには、変なことしても、受け入れる


例えば、せっかくしまった服を出して、またたたみ直しているときなどに、「何やってるのよ!」と怒ると、「イヤな人だ」というようになりますが、「ありがとうございます。あとは私がやりますから、ゆっくり休んでいてください。」とすれば、「なんて親切な人なんだろう」というように変わります。


食べたばかりなのに、「まだ食べてない!」と言い張る場合は、「さっき食べたでしょ!」と否定するよりも、ビスケット1枚ぐらい与えて、「もう少し待ってくださいね。それまでこれでも食べててください」というようにやったほうが良いと言われています。


介護する側からすると、大変なことですが、穏やかな気持ちで生活させることで、随伴症状をはじめとする問題行動が抑えられるのです。

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